ヨッシーの日記

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【線形代数】線形写像の像の基底

今回は,線形写像の像の基底を求める際に,出来るだけ基底ベクトルの数字を出来るだけ簡単なものにする方法を紹介したいと思います.この知識は線形代数の本質とは少し離れますが,編入受験テクニックとして知っておくと,とても便利な知識なのでここで紹介したいと思います.

線形写像の像と基底の求め方(よく使う方法)

線形写像の像の定義

まず像の定義から

線形写像  f:V\to W の像 \text{Im}fとは

 \text{Im}f=\{\, f(\boldsymbol{x})\in W \, | \, \boldsymbol{x} \in V \, \}

で表されるWの部分空間である.

簡単に像の意味を言うのであれば,「線形写像によって移されるベクトルをすべて集めてきた空間」です.今回はこのような像のイメージや意味は置いておいて単純に像の基底を求めることだけに焦点を当てます.

基底の求め方

例題を使って復習しましょう.

線形写像  f: \mathbb{R}^3 \to\mathbb{R}^2

 f(\boldsymbol{x})=A\boldsymbol{x}=\begin{pmatrix}1 & 1 & -1 \\ 2 & 1 & 1 \end{pmatrix} \, \begin{pmatrix}x_1 \\ x_2 \\ x_3 \end{pmatrix}

で定める.このとき,\text{Im}f の基底を求めよ.

まず,(標準基底に関する*1)表現行列の階数が像の次元になることを利用して,次元を先に求めます.つまり,行列を行基本変形します.

 \begin{pmatrix}1 & 1 & -1 \\ 2 & 1 & 1 \end{pmatrix} \to \begin{pmatrix}1 & 0 & 2 \\ 0 & 1 & -3 \end{pmatrix}
よって,
\text{dim}\,\text{Im}f = \text{rank}A = 2

より像の次元が2だと分かります.

次に像の定義から基底を求めます.

 
\begin{eqnarray}\text{Im}f &=& \left\{ \begin{pmatrix}1 & 1 & -1 \\ 2 & 1 & 1 \end{pmatrix} \, \begin{pmatrix}x_1 \\ x_2 \\ x_3 \end{pmatrix} \, \middle| \, \begin{pmatrix}x_1 \\ x_2 \\ x_3 \end{pmatrix} \in \mathbb{R}^3\right\} \\ \\
&=& \left\{ x_1 \begin{pmatrix}1 \\ 2 \end{pmatrix} + x_2 \begin{pmatrix}1 \\ 1 \end{pmatrix} + x_3 \begin{pmatrix}-1 \\ 1 \end{pmatrix}  \, \middle| \,  x_1 , x_2 , x_3  \in \mathbb{R} \right\}
\end{eqnarray}

ここで,基底みたいなものが3つ出てきた訳ですが,先程も述べた通り像の次元は2なので基底が1つ不要です.このような場合は,残ったベクトルが線形独立になるようにベクトルを1つ削除すればOKです.つまり

 
\begin{eqnarray}\text{Im}f = \left\{ x_1 \begin{pmatrix}1 \\ 2 \end{pmatrix} + x_2 \begin{pmatrix}1 \\ 1 \end{pmatrix}  \, \middle| \, x_1 , x_2  \in \mathbb{R} \right\}
\end{eqnarray}

のようにします.そして残ったベクトルを像の基底として良い訳ですが,こうして出来たベクトルは表現行列の成分をそのまま持ってきたので,問題によっては数が大きな場合もあります.「像の基底を求めよ」という問題なら別にこのままで良いのですが,この後に求めた基底を使って問題を解くみたいな問題では厄介です.実際,電通大編入試験ではよくこのような問題が出題されます.

像の基底を表現行列から直接求める

先程述べたような問題が出題された場合は表現行列を基本変形して像の基底を求めると良いです.先程扱った例題の場合は,

 \begin{pmatrix}1 & 1 & -1 \\ 2 & 1 & 1 \end{pmatrix} \to \begin{pmatrix}1 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & 0 \end{pmatrix}

というようになり,残った列ベクトル \begin{pmatrix}1 \\ 0 \end{pmatrix}\begin{pmatrix}0 \\ 1 \end{pmatrix} が像の基底ということです.ここでは,像の基底が \mathbb{R}^2 の標準基底になったので  \text{Im}f = \mathbb{R}^2 だったということが分かりますが,そもそも \mathbb{R}^2 の部分空間で次元が2のものは  \mathbb{R}^2 しかないのでこの結果は自明だったりします.

おそらくここまで読んだ人の中には,「列基本変形とか得体の知れないものを使って勝手に像の基底を求めても大丈夫なの?」と思う人がいるかもしれないので,この方法で像の基底を求めても大丈夫であることを説明しておきます.
これは,よく考えれば分かることなのですが,列基本変形という操作は「全ての列ベクトルの線形結合で新しい列ベクトルを作る」という操作になります*2
いま,一般に線形写像 f:V\to W の表現行列  A


A=\begin{pmatrix}\boldsymbol{a_1}&\cdots&\boldsymbol{a_n}\end{pmatrix}

で表されてるとします.この  A を列基本変形するということは,


\boldsymbol{b_1}=k_{11} \boldsymbol{a_1} + \cdots + k_{n1} \boldsymbol{a_n}
 \vdots
\boldsymbol{b_n}=k_{1n} \boldsymbol{a_n} + \cdots + k_{nn} \boldsymbol{a_n}

というような計算をして新たな基底  \{ \boldsymbol{b_1}, \cdots , \boldsymbol{b_n}\} を構成したに過ぎないということです.表現行列の列ベクトルは絶対  \text{Im}f に入っている*3ので, \text{Im}f に入っているベクトルの線形結合で作ったベクトルが \text{Im}f のベクトルになることは頷けると思います.
このように,像の基底を求める際には,線形写像の表現行列がわかっている場合,その行列を列基本変形すると成分の数がコンパクトになった基底を見つけることが出来ます.皆さんも是非使えるようになって下さい.

*1:本記事では,表現行列は全て標準基底に関する表現行列を指すこととする

*2:正則行列を掛けるという言い方をする場合もある

*3:標準基底の移り先であるから